桃川燕林「大岡政談 村井長庵」を読んで
こちらに所収されている桃川燕林講演の「村井長庵」を読みました。
(リンク先のNDLの書誌情報に目次が付いています。ご参考まで。)
本当であれば実演で聴くのが一番ですが、なかなか通しては難しそうだな…と思い、待ってないでこちらからお迎えにいってみました。読んでいて、へぇこういう内容なのか、と思うとともに、え?ん?おおお!?と驚く発見やもっと知りたいことが出てきました。
・驚いたことその1
登場人物の名前が違う。
例えば、長庵の妹の名。現在の口演ではお登勢ですが、本ではお安。
これは天一坊を読んだ時もそうでしたし、落語でも同じ演目なのに登場人物の名前が若干違うなど過去の経験から、よくあることなのだろうな?と思いました。
・驚いたことその2
雨が降っていない。
「村井長庵」の中でもっとも有名な読みどころといえば「雨夜の裏田圃」。全編は知らずともこの読み物なら出会ったことがある、演題だけでも聞いたことがあるぞ、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。長庵の悪事仲間である三次によって長庵の妹お登勢が殺されてしまう一話です。夜と雨と緊迫した語りに瞬きもせず息を飲んでしまいます。しかし、この本のなかでは雨が降っていない! しかしながら緊迫具合は同様。読んですらすごい迫力です。
・驚いたことその3
お小夜の妹がでてくる。
しかもこれまた長庵によって吉原に売られてしまう。そしてそして因果は巡ってお小夜に続き千太郎の想い人となる。
・驚いたことその4
小夜衣(お小夜)の怨霊による怪談がある。
これが怪談「小夜衣草紙」によく似ているのです。
・驚いたことその5
瀬戸物屋忠兵衛が出てこない。
その代わり、大岡越前の部下である堀内関三郎が登場し、彼の奮闘で事件が解決まで導かれます。
「村井長庵」における人物相関図を作成しましたが、その途中経過では以下のようなものでした。
お小夜の怨霊、お小夜の妹のお富(後に吉原に売られ丁山)のイラストがあるのがわかるでしょうか(黄色と赤の丸囲いのイラストです)。これは本のみで相関図を作成し始めていたために、現在の口演では見られない登場人物を描きだしていたからです。
現在と昭和初期の口演では異同があるようです。
一門で受け継がれた形が違う、現在までの間で新たな編集がなされたなど、いくつかの推測ができますが詳しくはわかりません。
また、小夜衣の怨霊のくだりと「小夜衣草紙」との類似にも興味がひかれます。
創作物である講談は生きている。
徳川天一坊、村井長庵と本を読み、現在の口演と比べてみて、最後の最後にたどりついたのはこのような感想でした。
同じ読み物を受け継ぎつつ、時代とともに生まれ変わっていく。
生きている講談、なんだかうれしいですね。
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