Q9 「トリ」?
Q9. 寄席やイベントで最後の出演者を「トリ」というのはなぜ?
A9. 興行の「心(しん、真)を取る」(=中心となる、かなめの存在)に由来し、その役割を担う出演者は通常最後に出てくることによる
落語や演芸会、身近なものだとNHK紅白歌合戦などで、最後の出演者を「トリ」(または「主任(しゅにん)」)といいますね。当たり前すぎて何の疑問ももっていなかったけど、なぜ「トリ」と言うのだろう?その由来は?
調べてみた
まず辞書を引いてみよう
■広辞苑(第二版 1969年刊)
とり【取】名詞 (①②は省略)
③〔イ〕寄席で、最後に出演するもの。真打。「-をとる」
■『落語入門 Go Go Rakugo!』(CCRE 2008年刊)
トリ:プログラムの最後に登場する最終演者。主任とも呼ばれる。寄席では真打クラスの実力者・人気者が担当。席亭から認められなければ、トリを任せられることはない。
うん、知ってた…
あれだ、次は語源辞典だ
■『新明解語源辞典』(三省堂 2011年刊)
とり【取り】
寄席で最後に出演する者。「取り」は動詞「取る」の連用形の名詞化。この場合、「取り」は「心(しん)をとること」(上方語源辞典)で、中心になることである。中心となる芸人はその時の出演者の最後にでるので、最終演者を称するようになった。「何時ぢゃ、取りまで聞いて居(を)らりょかな」(雑俳・机の塵)
なるほど!
この中で出典となっている上方語源辞典が気になる
もう少したどってみよう
■『上方語源辞典』(東京堂出版 1965年刊)
とり【取】
寄席芸人語。①真打ち ②最終出番。〔語源〕①は、「取り語り」の下略。義太夫節で採集を語ること(太夫)をいう。取りは、心(しん)を取ることの意。その転用。②は、①の出演する順番であるからいう。ただしこれは東京式呼称。上方はキリセキまたはキリというのが普通。
しん【心】
寄席芸人用語。①一座の座長。(②は省略) 〔語源〕通例、真と書くのは当字。中心または心柱の意。
きり【切】
「きり席」の略称。出番順の最終。寄席芸人語。〔語源〕能楽・浄るり・歌舞伎などの「切」と同義。限り、最後の意。
きりせき【切席】
最終の出番。略してキリとのみも。寄席芸人語。
長くなったが、気になる語をすべて記載してみた。「心(真)を取る」が省略と名詞化を経て、「トリ」となったのですね。上方の方へ飛んだ時は驚きとわくわく、そして義太夫節にたどりつくという意外性。
今回もたのしく調べものができた。ともあれ「トリ(取り)を取る」という言い方、言葉が重なったなんとも不思議な味わいですね。笑